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“伝統”数秘学批判
──「公然と隠された数」と周回する数的祖型図像 [11]
“4”の時代〜「元型的水曜日」(上)

■「数性4」の構成要素

「数性4」の象徴は、もっとも端的には「4本の棒」によって表される。場合によってはこの数性は幾何学紋様的には正方形(などの四隅を持つ方形)ないし「四分割される領域*」、また後述するように「四つの花弁」などによって表されることもあるが、ほとんどの範型的なケースにおいて、あるいは数的図像の基礎という意味で重要なのは「4本の棒(直線)」である。

* 「数性3」と同様、「数性4」にも複層的な意味がある。「数性4」が「世界の四隅: four corners of the world」を表す時、それは「全世界: the whole universe」を示唆するための象徴となっており、当然のことながら必ずしもそれが「歴史的時間」を意味しない場合が十分にあり得る。「数性4」の複層的意味合いについては適時説明をしていく。

しかしここで「数性4」の具体的な象徴物を取り上げる前に、その基本的構成要素のひとつである「第二の十字架」とも呼ぶべき、ある基本的な祖型的図像について語らないで済ませることはできない。それはわれわれが「信仰の十字架」もしくは「従順の十字架」と呼び習わすところの、そしてすでにある程度の記述を行ってきた「十字架」の図像に加えて、それと対照的に表徴されるところのもうひとつの十字架、すなわち「力の十字架」もしくは「抵抗/反抗の十字架」とも称すべき図像についてである。

言うまでもなく前者は、すでに「数性2」の章で観てきたように、現在キリスト教の象徴として受け入れられている水平方向の直線とそれに垂直に交わる直線で出来上がっている十字架のことである。一方後者は、言うなれば、それを左右どちらかに45度回転させて得られる「X字型」の十字のことである。「X字型」の十字は伝統的には“saltire”(ソルタイア)と呼ばれる。


■ 「抵抗」「闘争」「力」の象徴としての「X字型」ソルタイヤ

キリスト教によって相続され現世界に伝達されている通常の十字架 (Christian Cross, Greek Cross, etc.) が、その形状の立ち現れ方から「信仰」や「従順」そして「受容」と「自己犠牲」が表現されていることはすでに明らかである。実際そのような文脈と「浄罪の場面」を通して「十字架」は、われわれの歴史の冒頭において、世に提示された。

Christian Cross Saltire

一方、ソルタイアと呼ばれる「X字型」の十字架は、対抗し交差する二本の斜め線*によって描かれる。これは大胆に抽象化すれば、そのまま「闘う二者の剣が宙空で激しく相交わる様子」を模したものと見ることもできる。これ自体が「力」の行使による闘争や抵抗の場面を表していると考えられるのである。また、城や町を守るために、ランス(槍)を手にした左右二対の番兵が、外からの訪問者を城壁の門前で止める場合も「X字型」にランスを交差させるであろう。これは「受容」とは全く逆の「拒否」ないし権威的力のプレゼンスを表現するポーズであり作法である。

Saltire heraldry Pen Saltire

また日本の学校などの徽章に現れる例として、知識を表すペンでさえも、それが「X字型」に二本交差すると、そのシンボルの表象するところは「力」や「競争」としての学問や学究を意味し得る記号となるのである。「ペンと剣」の交差というのは文武両道の「力」の追求を表していると考えることができる**。こうしたふたつの要素が交差するとき、それは「信仰」や「従順」を表す類の通常の十字架状に交差されることはほとんどなく、ほとんどが「X字」状に交差するのである。

ここでひとつ思い出す価値のあることとは、この「X字型」の十字架がわれわれに連想させる「材料/材質」である。ここにはペンや鎌、そして刀や槍など、金属との極めて深い関連があるのである。「従順の十字架」が典型的に木製であったことを想起すれば、その「抵抗の十字架」の材質的な対照性も極めて明瞭なのである。

* 紋章学の伝統においては、ふたつの直線には名称がある。左上から右下に引かれた直線を“Bend”と呼び、右上から左下に引かれた直線を“Bend sinister”と呼ぶ。ソルタイアとはそのふたつの「ベンド」が交差したものと考えることもできる。
Bend & Bend sinister

** 20世紀の例では「ソルタイア」のヴァリアントとしては、「鎌と槌」の「X字型」の交差によって表されたソヴィエト連邦の国旗があった。これは労働者たちのブルジョワ階級への反抗と闘争によって産み出された新しい階級を表す共産党(または労働党)のシンボルであった。またさらに近年の例としてはイスラムに改宗した闘争する黒人活動家であり「アフリカ系アメリカ人統一機構」創立者、マルコム・X (Malcolm X, 1925-1965) が、「X」を自らのシンボルマークとしていたのは象徴的である。「X」は「謎」であり匿名性を意味するものだが、祖先が奴隷としてアメリカに売られて来られ姓は白人に押し付けられたことを踏まえ「本当の姓は不明」の人物であることを主張するものと言われており、彼がイスラム教徒に改宗した時にそのように「名乗り始めた」と言われる。だが、図像的にそれが紛れもない「抵抗」のシンボルであることに則ったものであると、われわれには理解することができる。

Malcolm X Soviet Union


■ 二種の十字架の合成

われわれはこのように異なる意味合いをもった二種類の十字型の象徴を得た。そしてここでわれわれが理解したのは、これら二種類の十字紋様(ないし十字架)は、抽象化された図像において全く等価の直線という単純な構成要素を持ちながら、十字の傾き具体によって全く異なる意味合いを醸成するということである。だが、その二種類の十字紋様を組み合わせ、「ひとつの図像」として再構成することで、さらに応用的な意味伝達を成し遂げるのである。もはや断る必要もないだろうが、端的に表現すればその組み合わせとは、ある種の「二重十字」の表象であることが分かる。便宜的にここで「二重十字」と呼ぶことにする図像祖型は、従って四本の棒によって出来上がるのである。

Double cross

様々に偽装されてそのように受け取ることが難しいケースがあるものの、「二重十字」はふたつの十字架の相対立する性質の「拮抗」を描く。前述した木製の「従順の十字架」と金属製の「抵抗の十字架」の拮抗における優勢は、最も単純には、それを構成する軸(棒・線)の長さによって表現される。したがって、表徴され凍結された静止画的な図像においては、その立ち現れ方として「従順」と「抵抗」のどちらが勝っているのかというのを、その直線の長さを観れば、ほとんど瞬時にして了解することができるであろう。
Saint-Martin-Vesubie[1] Coptic cross[2] Catholic gift cross[3]

図版引用先:
[1] Crucifix de procession de la confrerie des P?nitents noirs de Saint-Martin-Vesubie @ Association Montagne et Traditions
[2] Crucifix @ The Christian Coptic Orthodox Church

[3] Brass Standing Altar Crucifix @ Divinity Religious Gift (e-Commerce shop)

教会アルター上の十字架の中には、伸長しつつある「4の数性」を暗示した例が見られる。

(ここまでが[1])



posted at 04:44:00 on 2006-04-22 by entee - Category: 伝統数秘学批判 TrackBacks

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