entee memo

金剛への第一歩
集団的な「浄化」儀礼と<対称:symmetry>の伝えるもの[4]
頂点の「壷」と「未到の屋根」(クレスト)

  

■ 西洋・近東のフィニアル

西洋・近東の左右対称図像の起源の古さについてはすでに述べた。おそらくわれわれにとっての歴史時代とも呼ぶべき時間の「始まり」にまで遡れるのではないかとさえ思えてくる図像のひとつである。ここでは、おそらくわれわれの「記録された時代」において「最古」と思われる対称図像のいくつかを見た後に、その「中心的」要素であるフィニアルそのものの詳細に迫る。

伝統工芸品の中に見出される装飾品「フィニアル」が渦状の対称(対面した)要素をほぼ例外なく伴うこと、また「局部的要素」としてのフィニアルに、どのような秘教的な意味を持った物品が取り上げられ、「装飾品」として偽装されているのかというのを見て行く。

後は、「多くを語ること」ではないことが明瞭になるだろう。これらの品々がそれ自体で通常言語の持っている伝達力以上の、ほとんど魔術的と言っても良いような崇高な力を発揮するからである。したがって、ここまで読み進んできた方々に相応しい方法として、可能な限りこうした「図版そのものに語らせる」というのが実は賢明なのである。

ナバタイ王国(現ヨルダンの砂漠地帯)ペトラの「墳墓」遺跡
ペトラは「岩山」の意。ペテロ(ピーター)と語源は同じ。ペトラの都市が存在したのは紀元前300年。いずれもキリスト教定着以前に建立されたと考えられている。中央頂点に据えられた巨大な「壷」は、見たところその下部が4つの柱によって支えられており、まさにトロフィーの原型となるものだということが分かる。その優勝杯に左右から迫るのが「クレスト」である。


エド・ディル(修道院)


エル・カズネ[アル・ハズネ](宝物殿)
巨大なフィニアルである「壷」には宝物が入っていると考えたベドウィンによって銃で射撃されたことがあると言う(現在も破壊されたまま)。動機はともかくとして、それを正確に狙ったのは実に象徴的な行為である。


瓶と呼び習わすよりはむしろ「壷」と読んだ方が適切なのではないかと思われるこの「杯」の原型的なのがローマ時代(あるいはそれ以前)のフィニアルとクレストの組み合わせである。これについては「波頭」形状よりは純粋に対称な構図と、中心に据え付けられている巨大な壷状のフィニアルに到達しようとする二つの「腕」とも言うべき「屋根」が特徴である。この屋根(クレスト)は、通常の屋根と同様、中心に近づくにつれて高くなるにも関わらず、触れる直前のところで断絶されているというユニークな形状をとる。これが「屋根」と呼ばれるにも関わらず、屋根の機能を果たしていないことは明らかで、ということは特定の意味内容を伝えるための、儀礼的機能しか持たないものであることも、ほとんど説明を待たない。これはフィニアル「寸前の断絶」にこそ意味があるからである。

関連
庭園材料のサイト
手書きのイラスト


■ 「優勝杯的原型」としての今日的工芸品(modern arts)

すでにトロフィー(優勝杯)の中に小型の優勝杯が含まれるように、フィニアル自体にもまた、小さなフィニアルが含まれるという様な一種の「入れ子構造」があることについては簡単に言及したが、それについてもいくつかの実例を見ていこう。

優勝杯自体はセーヴルという装飾的な壷(あるいは蓋を持った瓶)が原型的なかたちを伝えている。優勝杯とセーヴルは、ほぼ同じものであると言っても良いほど似た構造を持っている。これらに共通なことはそれ自体が「フィニアル」という大きな装飾要素の一部をなしていながら、それ自身の内部にも「波頭とフィニアル」と解釈できそうな要素を含むケースが多いという点である。つまり、壷(セーヴル)の左右に配される取っ手(ハンドル)は完全に対称性を強調する要素として本体に付属しており、また実利の面では余り用を成さないようなやや過多な意匠を持つハンドルには、多くの場合、濃厚な「波頭/渦巻き」形状が観られる。そして中央の頂点に位置する壷の蓋のつまみ(ノブ)は、しばしば果物のかたちを模したフィニアルが付いているのである。つまり、フィニアルとしてのセーヴルが小さなフィニアルを含んでいるのである。

 
左:フランスの磁器工房が19世紀に製作したというセーヴル(Sevre)
右:19世紀フランスのペアのセーヴル。Onyxの呼ばれる柱付きの台座に乗せられたもの。いずれもそれ自体がフィニアル状であり、その中に小さな「フィニアル」とそれに迫ろうとする植物の蔓(つる)のような「波頭」形状のハンドル(もしくは装飾)が伴われている。


茶を入れるために使うロシア家庭の食卓に見られる伝統的なサモワール (samovar)なども、こうしたセーヴル的な原型を含む壷や蓋を持った瓶のバリエーションのひとつであろう。上に見た18-19世紀に製作されたセーヴルと違って、こちらは実益に供する道具であるが、形状的には台座にあたる下部は小さくその直径がコルセットで縛られたウエストのように絞られており、容れ物にあたる部分は太く膨らんでいる。そしてその本体上部に双翼的な左右対称のハンドルが付き、そのハンドルのデザインが波頭を意識している。こうした西洋に広く見られる壷(瓶)の類は、まさにこうした優勝杯のかたちの祖型と言うべきかたちをとどめているのである。

 
ロシアにおける「茶の儀式」に欠かせないアイテム、サモワール。いずれも、左右の取っ手(ハンドル)は「波頭」形状の名残があるが、セーヴルよりは実用性が求められるため、過度にオーナメンタルにはなっていない。

上左:典型的なスチール製のサモワール。左右対称性が特徴。中央に湯を放出するための蛇口がついているのが分かる(しかも蛇口の取っ手はトリニティを顕わす「鍵」のような三輪式デザインとなっている)。それがなければ「優勝杯」そのものである。

上右:いわゆる食卓を彩る贅沢品としてのサモワール。中央頂点の部分は、ポットを保温するための皿がついており、ポットを固定すると高くポットが聳える形になる。ポットが載せられることがサモワールの最大の特徴と言ってよい。実用的ではあるが、その異様な使用方法は、象徴図像的には「大きなフィニアル」(サモワール)の上に「小さなフィニアル」(ポット)が載せられる形となる。


  


上左:銅製のサモワール。左右取っ手の「波頭」形状の名残が見える。

中央:ほとんどセーヴル化した装飾的なサモワール。これではおそらく「お湯を沸かす」ことは出来まい。

右:電気式になる前の、炭火を利用していた頃のサモワールの原理。水の中に火を入れ、湧かしたお湯は蛇口を経由してポットへ、お茶の入ったポットは中央の頂点へ、そして出てきた湯気はお茶の保温に、という、極めて実利的でいながらどこか「道教」的でも「錬金術」的でもある、秘儀を感じさせる「茶の間」の道具。


参考
Samovars: Truly Cultural Symbols of the Rus
The Russians are Here! What's Samovar




posted at 23:23:00 on 2005-11-09 by entee - Category: The Ω Archetype TrackBacks

コメント

ほひっ☆ wrote:

{寸断される屋根」の「寸断」はいかなる意味にかあらん。
頂点を目指して上りながら、すっと闇の底に落ちるのか。頭上のはるか遠くに光。眩暈。
それとも「寸断」はあるリズムを伝えるのか。単なるアクセントなのか。
そんなことを考えて眠れなくなったりしたら、なんかヘンですよね。
図像が語るのは事実ですが、entee さんの「あるひとつの解釈」も、お伺いしたいものです。
2005-11-10 09:14:37

ほひっ☆ wrote:

あ、「眠れなくなった」のは、冗談です。
私はイメージが広がって、いろいろ想像してしまう癖があるのです。
解釈、じっくりと、楽しみに、お待ちしています。
2005-11-10 10:00:31

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