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“伝統”数秘学批判
──「公然と隠された数」と周回する数的祖型図像 [17]
“5”の時代〜「元型的木曜日」#3

■ 禁忌としての五芒星

五つの角を持つ星の光輝は、現実の人間の肉眼では見ることができない。星の輝きが尖ったように見えるのは総てのヒトが大なり小なり持っている「乱視」のせい*である。乱視がなければ星は小さい明るい点の様にしか見えないだろう。そして乱視はわれわれの目に夜空の星の光輝を偶数数の光線として捉えさせることがあっても、奇数である五芒星に見せるということはない。言わば「五芒星:星状五角形」というものは、自然物の模写(写実)を起源とするものではない、全く別の抽象的な観念とその伝達に由来を持つものである。それはここまでくれば言うまでもなく「数性」という抽象概念である。

そして、すでに21世紀を生きることになったわれわれにとってさえ、五芒星の図像から受けるのは、未だ「比較的モダンで真新しいもの」という獏たる印象である。実際、典型的五芒星が中世やルネッサンスの美術史上に顕教的/世俗的な身振りで現れることは極めてまれであった*。言い換えると、五芒星のモチーフは永いこと顕教的な宗教美術作品においてほとんど登場することもなかった。あったとしてもせいぜい極めて秘教(密教)的かつ通過儀礼的な限られた者に公開される種類のものが主である。今日「星」を当たり前の様に表徴することになった五芒星のモチーフも、近年に至るまでこれほどには一般的に親しまれて来なかったのである。この5つの角を持つ「星」の世間一般への登場は、西洋文化圏に関して言えば、この千数百年の美術史を振り返ってもせいぜい二、三百年ほどしか遡ることが出来ない。このことは特筆すべきことの様に思われる。

* 後述する様に、さらに古い時代(例えば古代エジプト)まで溯れば、数性5を濃厚に体現した「星」が素描や宗教的美術品の中に見出される。
Egyptian stars (5-pointed) Egyptian star (in tablet) Star in hierogliphe
画像引用先:textverarbeitung
MYSTERIES OF EGYPT


われわれはあらためて五芒星が「星を表す記号」として一般化されたのが比較的新しい事態である意味を検討すべきである。かつて五芒星は中世社会では魔的なものと捉えられ忌まわしいものとして嫌われる風習が一部にはあった。今から思えば、それこそが相応しくない時代に五芒星が公衆の面前に現れたり、世俗的目的のために借用されてしまわないようにブレーキを掛けていた感さえある。禁忌が実際に忌まわしいものである必要はない。だがまさしく、禁忌こそが濫用を防ぐ封印として機能して来たのである*。

Inverted pentacle baphomet

とりわけ「逆さ五芒星」などは「角を持った山羊/牡牛」などの呪術的・悪魔的な表徴と重なる部分もあり、また、そのために今日子どもたちが夜空の星を描写するのに「星状五角形」を描くようには、例えば中世の西洋社会でこの図像モデルが日常的に用いられることはなかったのである。当然のことながらそれを服飾のパターンとして日常的に用いるなどということなどは考えられないことであった。

* 「北枕が縁起は悪い」というのも実は嘘で、「北枕」本来の利点を民衆から隠すものであり、その習慣がエリートたちによって独占されていたという様な話も一部には知られることである。「禁忌が濫用を防ぐ封印として機能する」「禁忌が聖別を可能にする」という例は、数性に関する例として「13日の金曜日」や「13階段」などがあり、現在でも特定の聖数を濫用させないための聖別としての働きがあるのではないかと疑われるところである。

図版引用先:
Inverted Pentacle > Pagan / Wiccan Religion @About

Witchcraft Exposed by Kraig Josiah Rice
Dealing with 'Dealing with the Devil' By Vaughan Wynne-Jones > Pagan Views @PaganNews.com

一定の象徴図像の範型(モデル)が汎用されないということは、さしづめ一定の時代まで「ソロモンの印章: Solomon's Seal」もしくは「ダビデの星: the Star David」と呼ばれる「星状六角形」(六芒星:二重三角形)が、キリスト教社会で半ば恐れられ、ほとんど禁忌とされてきた傾向と相似する。欧州世界ではつい20世紀半ばまで六芒星が被差別民であった「ユダヤ人の烙印」として知られているのみであった。そしてそのことは、特定のシンボルが或る時が満ちるまで特別なものとして保存され、一般人による濫用から守られることを意味する。現に「ダビデの星」は特定民族(ユダヤ人)についての濃厚なる連想によってそうした濫用から未だに(そしておそらく今後も)守られているとさえ言ってもよかろう。

六芒星については後に本シリーズの『“6”の時代〜「元型的金曜日」』の中で主に論じられることになろう。


■ タロットにおける五芒星

タロットカードにおける四つの要素は、中国の五行(木・火・土・金・水)のうちの「土」を除く四つ、もしくは四大(元素)に相当するという捉え方ができる。ソード(剣:火)、カップ(杯:水)、ワンド(棍棒:木)、そしてペンタクル/メダル(金貨:金)であるが、それぞれがトランプにおけるスペード(数性1)、ハート(数性2)、クラブ(数性3)、ダイヤ(数性4)という元素を暗示しつつ、それぞれが括弧に示したような数性を濃厚に保持した元型的図案のモチーフへと変形したことは知られていることである。

トランプにおいては「菱形」(四角形)で表象されたところのダイヤ(金貨)が、「ペンタクル:五芒星」に相当するスートに置き換わって表現されるようになるのは、実に近代以降である。これも「4から5へ」のいわば数性のインフレーションが起きた一例と言うことができるかもしれない。

メダル(金貨)に相当するスートが「ペンタクル」になっているタロットカードに関しては、近代以降は《黄金の夜明け団》にも在籍したオカルト研究家のA. E. Waiteの発注によって、Pamela Coleman Smithという画家が描いたものが有名だ。William Rider & Son Publisherという出版社からリリースされたため「Rider Deck: ライダー・デック(デッキ)」ないし「Rider-Waite Deck: ライダー・ウェイト・デック(デッキ)」とも呼ばれ、古いマルセイユ・デック等に並んで今日代表的なセットとなっている。このカードの出版年は1909年であり、現代においても占いの世界で極めてひろく「実用」に供されるタロットのデックはまさに20世紀初頭の創作なのである。このバージョンの出版によるタロットカードの大衆化も、ペンタクル(五芒星)が比較的新しい時代に大衆化された証拠のひとつとしてが浮かび上がるのである。

蛇足になるが、タロットに於ける五芒星が正邪両面を表していることは、ここで引用する実際の画像によっても諒解可能である。言及したRider-Waite Deckにおいてはそれがきわめて顕著に表現されている。ペンタクルの持っている正の性質をよく表していると解釈できる「ペンタクルのエース」と「ペンタクルの8」を取り上げた。
Pentacles (Ace and 8)

一方、次に上げる画像は、ペンタクルの保持する負の性質を表している。「死 Death」のカードに於いて死神の手にする黒い旗にあしらわれているのは明らかに「逆さ五芒星」を暗示したものであり、また「悪魔 Devil」のカードにおいては角を持った山羊が悪魔の姿として描かれているが、その顔と角に相当する部分に五芒星がオーバーラップさせられている。このように逆さに描かれる五芒星が、きわめて邪悪なものを連想させるものとして位置付けられていることは否定のしようがない。
Pentacle (Death & Devil)


posted at 23:23:00 on 2007-04-23 by entee - Category: 伝統数秘学批判 TrackBacks

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