entee memo

金剛への第一歩
集団的な「浄化」儀礼と<対称:symmetry>の伝えるもの[2]
波頭とフィニアル

■ 波頭とフィニアル

至上権を巡って競争する左右対称の祖型的パターンをより古く辿って行くと、古代ローマの建築物に行き当たる。左右対称の「波頭」(あるいは「渦」や「蔓」)と中央に据えられる「杯/壷」のパターンである。これは対面する要素が人や鳥獣から「迫り来る波」に置き換わっただけのもので、それの伝達しようとする内容は同じである。この組み合わせのパターンは無論近東や西アジアの古代遺跡からだけではなく、南米を含むほとんど世界中のどの地域にも見出される。日本に於ける社寺仏閣の瓦屋根、そして宝珠に言及した時にも取り上げた石灯籠にも見出せる。ただし、ここでは日本の「波頭と杯」「波頭と宝珠」を含む対称図像に関しては後半で取り上げることになろう。

こうした左右対称の構図はあらゆるものに見出される。
 

(上)「グランドファーザー・クロック」と呼ばれる背の高い振り子時計。左右の柱が特徴的。時間と「時間の終わり」の関連が濃厚に見られる。(下)コロニアル・ベッドと呼ばれるフィニアル付きベッド。睡眠中も頭上にフィニアルがそびえるのである。



西洋の家具や柱時計に於いてもその対称構図は非常に頻繁に出現する。モダンなデザインでは簡略化もしくは完全に失われていることが多いので、そうした「波頭とフィニアル」の要素は見出すことが難しいが、ちょっと古いアンティックなどを確認すると、いくらでも見出すことのできるものである。そして古代の遺跡はその痕跡が失われつつあるものが多く、またそのうちの多くは復元によって再現されたものだ。

しかしこうした家具において、その形状は職人達の伝統によって受け継がれた絶えざる徴として明確に確認できるのである。むろん、その徴の意味を職人が了解していたかどうか、作る対象について自覚的であったかどうかは別問題なのである。ただ過去から伝わって来た意匠を忠実になぞるということによって伝えられる<普遍的題材>というものがこの世に存在するということで十分である。それはすべての茶の湯の実践者たちが自分たちの扱っている内容について、身につけた作法以上の深い理解をしているかどうかは別問題であるのと同様のことである。

このサイトに於けるfinialの説明の冒頭は非常にアナロジカルである。「サンデイ: Sundae*(洋風みつ豆)におけるチェリーのようである」とある。つまり、このスイートはまさにお菓子によるトロフィー構造になっているのである。それはクリームやチョコレートアイスクリームの作り出す山の頂上に置かれる赤い「チェリー」によって完成する。


* 音的には「Sunday」と同じ。

この中央の物体に一歩手前まで迫ろうとする部分は「波頭」形状が一般的であり、伝統家具の世界でそれは「crest」と呼ばれる。一方、中央の「物体」はフィニアル(finial) と呼ばれる。フィニアルは、家具だけでなく、柱時計、マントルピース、建築、土木など大小さまざまな伝統職人の扱う創作物中に登場する。また、Finial*は、英語の「finish, final」と同じ語源を持つ。Fin(仏)、Finito(伊)は「終わり」の意味を持つ。つまり、中心に迫る波頭は「終わり/完」への最後の(直前の)一歩を描いているのである。家具や建築に於けるこの「フィニアル」の役割は、その製作の「仕上げ」を意味しているのであって、すべての行程を終えていよいよ作品の完成という時に、その作品の中央に据え付けられるのである。

だが、以上のような「顕教的」な説明は、そのオブジェクト自体がわれわれの内面(無意識域)にほとんど直截に訴えかけ伝えようとしている内容とのあいだで微妙な一致を示しながらも、そもそもそれが「何の仕上げなのか」という「象徴されるもの」自体の本質の全てを明らかにしない。しかし、そもそも家具(とりわけ「時計」)といった道具自体に「完了」や「終わり」を意味するものが「掲げられる理由」は、そのオブジェクト以外に求められるのである(あまりに自明なことであるが)。すなわち、「象徴するもの」は、「象徴されるもの」あるいは「象徴される出来事」を指し示すに他ならない。そしてそれらは単なるオーナメント(装飾品)以上の意味を持つのであり、「指し示されるもの」というのが断じて外在するということなのだ。

* 場合によってはクロップ(crop)と呼ばれる。「作物」「収穫物」の意味である。このフィニアルがパイナップルやその他の果物に置き換わることのできる理由が、その意味「至上権」から憶測することができる。


家具やランプシェードに付けるフィニアル(左) 建築物に使われるフィニアル(右)

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パイナップルに姿を変えたフィニアル。「クロップ:収穫物」の名でも呼ばれるフィニアル。サウスカロライナ州チャールストンに於けるジョージ・ワシントンが幼少を過ごした家が博物館になっている。その家の家具のほとんどにパイナップル状のフィニアルが付いている。それを館内のガイドに意味を尋ねると、「Pineapple means hospitality.」(パイナップルはおもてなしの意味)」であった。

後半ではフィニアルのバリアント、そして日本におけるその代替物を見ていくことにする。それは、世界中に見出される、後にわれわれが<Ω祖型>と呼ぶことになる図像元型へとつながっていくのである。




posted at 23:39:00 on 2005-10-26 by entee - Category: The Ω Archetype TrackBacks

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